ぷち心理学タイトル 51.誤解で人間関係を壊さないために
 私たちの生活の中で最も気をつかうのは,人間関係ではないでしょうか。ささいな誤解が原因でトラブルに発展したり,相手との関係がぎくしゃくしてしまうことがあります。しかも,それが誤解だったと気づかない場合もあります。
 以前,仕事の関係で,ふたりの女性と会った時のことです。ひとりは上司,もうひとりは部下にあたる新入社員でした。新入社員の女性は,少し元気がありません。その理由を上司の女性が説明してくれました。 「実は,彼女,ちょっとしょげてるんです。というのも,今朝,コーヒーカップをコンピュータのキーボードの上にひっくり返してしまい,キーボードをコーヒー浸しにしてしまったので…」 私はそれを聞いて思わず, 「まぁ! 気をつけないとね」 と言ったのです。それは,自分も同じことをしそうだと思ったからです。もちろん,「私も気をつけないとね」という意味でした。ところが,うっかり主語を省いたために,新入社員の女性は自分の不注意を非難されたと思ったのです。つまり, 「あなた,気をつけないとね」と言われたと受け取ったのです。彼女は私に向かって「どうもすみません」と謝りました。
 その一言で,私は彼女に誤解を与えてしまったと気づき,慌てて言いました。 「あ,違うんです。私も気をつけないと,という意味だったんです。紛らわしい言い方をして,ごめんなさい。」 彼女は笑顔になり,私も,ほっとしました。
 もし彼女が黙っていたなら,双方とも誤解に気づきはしなかったでしょう。そして私は,上司でもないのに彼女を非難する嫌な人間と見られたことでしょう。
 私たちは普段の会話の中で,主語を省略しがちです。そのため,話し手が自分自身のことを言っていても,聞き手は,自分のことを言われたと誤解してしまいます。たとえば,「(私って)ダメな人間だわ」とため息混じりに言ったところ,相手は「(あなたって)ダメな人間だわ」と言われたと思いこみ,場が凍りついたという話を聞いたことがあります。
 こうした誤解は,主語をきちんと言うだけで,避けることができます。まずは,日頃つい省略しがちな主語を,意識してはっきり言う習慣をつけてみてはいかがでしょう。
(2017年 Happy=Note 春号 p. )