思考の創造性:豊かで柔軟な発想が生まれる条件


2.何が創造性を妨げるか

 幼い子どもたちは皆,ある意味では,大人よりもずっと創造的である。成長するにしたがい,少しづつ創造性をなくしていくように見えるのは,なぜなのだろうか。それは,創造性の妨げとなる要因が存在し,もともとあったはずの創造性を抑え込んでしまうからだと考えられる。
 そこで次に,思考の創造性を妨げる要因について考えてみよう。

(1)機能的固着(とらわれ)
 私たちは,一般には経験とともに知恵をつけていくものであるが,反面,自分の経験や習慣などにとらわれてしまい,頭が堅くなっていく側面もある。自分なりの解決法や物の使用法に慣れると,それ以外の方法を思いつきにくくなる。こうした現象を,機能的固着と呼ぶ。
 たとえば,ダンベル体操をしたいがダンベルがないという場合に,1.5リットル入りの筒型ペットボトルをダンベルの代わりにすることを思いつくためには,「飲み物の入った容器」という固定観念を捨てて,ダンベルの代用品としてとらえ直さなければならない。これは,一般には困難なことである。本来の用途以外の使い方を考えるといった創造的思考のためには,経験によるとらわれから,思考を意識的に解放する必要がある。

(2)同調傾向
 わが国ではとりわけ,「皆と同じであること」を重視する傾向がある。進学や就職の際にも,とりあえず皆と同じ方向を望む親が圧倒的に多い。人と違っていることへの不安から逃れるために,人と同じように考え,行動するという同調傾向が,随所に見られる。
 また,学校教育においても,皆と違っている子どもは,とかく疎まれがちである。教師にとって,大勢の子どもたちに同時に目配りしなければならない状況のもとでは,皆と同じように反応する子どもの方が,何かと対応しやすいのも事実である。
 さらにまた,家庭や学校を取り巻く社会も,周囲に同調してくれる人材を,「協調性がある」とみなして歓迎してきたいきさつがある。こうした同調傾向は,創造性を妨げる方向に働く。

(3)権威主義的雰囲気
 権威主義とは,権威を無批判に受け入れてそれに従うという行動特性を指す。多数派や権力者,伝統,社会規範などの権威には服従するが,一方では,少数派や自分より下位の者には無条件の服従を要求するという側面を持つ。家庭や学校,社会にこうした雰囲気がある場合には,思考の柔軟さや独創性などが特に抑えられ,子どもの創造性は乏しくなる。

(4)ゆとりのなさ
 時間的あるいは心理的にゆとりのない状況では,誰しも型にはまった思考を行いがちである。創造的に考えさせるためには,子どもたちが考えたり試してみたりするための時間と心の余裕が確保されている必要がある。

(5)与えすぎ
 「必要は発明の母」とのことば通り,新しいことを考え出すには,具体的な必要性が動機づけとなる。しかも,この「必要性」は,子どもにとって切実なものであるほど効果的である。
 欲しいおもちゃを次々に買ってもらう子どもは,そうでない子どもに比べて,自分で工夫することが少なくなる。同様に,すぐに答を教えてもらったり,ヒントを次々に与えられたりすると,自分で考える必要性が薄れる。結果として,創造的思考を働かさなくなる。

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