叱られた記憶ってどれくらい残るんですか?

  -幼児期の叱り方についての相談事例- (三宮真智子)

相談1)よその子をたたく娘を,暗い部屋に閉じ込めてしまいました。(Aさん/3才9カ月の女の子の母)

 娘がl才半の頃,近所には同じくらいの年齢の子どもがたくさんいたのですが,おもちゃの取り合いなどから,娘はよその子をたたいてばかりいました。それで,私は家に戻るとドッと怒りがふきだし,お尻を何度もたたいたり,暗い部屋に閉じ込めたりしたことがありました。
 その後は口で言えばわかるようになり,体罰は使っていませんが,何か悪影響が残らないかと心配です。

回答)お尻をたたくことや暗い場所が,必ずしも悪影響を残すとは限りません。
 ことばが未発連な年齢での記憶では,やはり体罰を受けた「痛み」や,暗い場所に閉じ込められたりしたときの「怖さ」が残りやすいようです。ただし,それがそのまま,いやな思い出として残っていたり,叱り手へのネガティブな感情として残っているかは別の問題です。
 こんな事例があります。ある女性にはl才年上の兄がいて,子どもの頃,しょっちゅう,きょうだいゲンカをしていたのですが,お母さんがよく2人にお灸をすえたそうです。しかし,2人とも,母親の温かさを感じさせる懐かしい記憶だと言います。というのは,お母さんがお灸のあと,「ごめんね」と言って,お尻にバンソウコウを貼り,2人を抱きしめてくれたことを,鮮明に覚えているからなのです。
 このように,お尻をたたかれたり暗くてせまい場所に閉じ込められたということがあっても,温かみのある叱り方の場合は,一般に心の傷として残りません。
 このお子さんの場合,まだl才半だったこともありますし,その後はよい関係のようなので,いやな記憶として残ることはないでしょう。その後の接し方に問題がなければ大丈夫ですので,ご安心ください。

相談2)上の子ばかり叱ってしまいます。(Bさん/姉3才6カ月,弟1才1カ月)

 私には妹がl人いて,小さい頃,妹の方が親からわがままを聞いてもらえるのがうらやましくて,寂しかった記憶があります。 それなのに,下の子が生まれてから,どうしても上の子を叱ることが増えました。下はまだ手がかかるので世話をしていると,上の子はいつも,これやって,あれやってとせがむので,私もイライラして,すぐに「自分でやりなさい!」と叱り,時にはお尻をぶつこともあります。
 私も頭ではわかっていますが,生意気な口をきかれると,つい本気で言い返したりしてしまうのです。このままで,いいのでしょうか。

回答)子どもはえこひいきには敏感。上の子にも満足感が持てる記憶を残してあげましょう。
 子どもが2人以上いると,どうしても上の子は親から叱られたり,がまんを強いられることが多いですね。これは,上の子が持って生まれた損な役回りとも言えるのですが,子どもはえこひいきには敏感です。不満や悲しい記憶が残る可能性があります。
 そこで,お母さんとしてはできるだけ,公平に扱うようにしたいところです。でも,頭ではわかっていても,つい上の子を叱ってしまうことはありますね。そういうときは,これを補うような記憶も残してあげるようにしましょう。
 たとえば,「お母さんはあなたが大好きで,もっといい子になってほしいから叱るのよ」と話したり,下の子が寝たあとで,上の子を思いきりかわいがってあげるなどです。
 子どもは,やはり自分がかわいがられているようだという満足感があれば,きょうだいにもやさしくなれます。大きくなったとき,叱られた記憶は残っていても,同時に自分が愛されて育ったことも思い出すものです。

相談3)子どもが男の子2人なので,叱ってばかりです。(Cさん/兄4才6カ月,弟2才6力月)

 2才違いの男の子2人なので,毎日きょうだいゲンカが絶えません。おもちやの取り合いなどから,いつもケンカが始まります。できるだけ2人を引き離して仲裁しますが,短気な性格の私は,腹が立つと小さな子ども相手にガミガミと,本気で叱ってしまいます。
 上の子など,ヤケを起こして「お母さんなんか大嫌い。出て行ってやる」と叫ぶこともあります。怖い母親のイメージが残らないか心配です。私自身は,兄2人と年が離れた末っ子で,大家族の中で甘やかされて育ち,親から叱られた記憶はありません。

回答)怖い母親の記憶も,大きくなれば解釈が変わります。
 まず,Cさんは子ども時代に叱られた記憶がないということですので,子どもを叱ることが不安になるのかもしれませんね。でも,子どもを叱ること自体に臆病になる必要はないと思います。
 お兄ちやんは,お母さんに負けずにかなり言い返していますね。こういう子どもは抵抗力があり,叱られてもその場で発散しているので,心の傷になるようなことはまずありません。
 また,「自分が小さい頃,お母さんはとても怖かった」という記憶があっても,子どもは成長するにしたがって,そのことを許せたり,「あの頃,お母さんは忙しくて大変だったんだな」などと解釈を変えて,克服していけるものです。

相談4)妊娠中,子どもに当た散らしました。(Dさん/兄5才7カ月,妹2才0カ月)

  下の子を妊娠中,ちょうど上の子はトイレット・トレーニング中でした。私のお腹が大きくなるにつれ,それまでうまくいっていたおしっこも失敗が増え,私はイライラ。子どもが全然かわいく思えず,ちょっとコップの水をこぼしたくらいでもたたいたりと,当たり散らしていました。理由なしに叱つたり,子どもにかみついてしまったこともあります。
 子どもの心の傷は大きいらしく,今でも私の顔色をうかがったり,「パパの方がいい」と言ったり。また,上の子がかみついたとき叱ったら,「ママだって,かみついたじゃない」と,しっかり覚えていてショックでした。妹を叱る口調も私にそっくりで,当時のことはなかなか忘れてもららえません。  幸い,私の実家が近くて,おばあちやんにとてもなついているので,子どもに逃げ場所があるのが救いだと思うのですが....。

回答)記憶の修復は可能です。叱るときは,不意打ちを避け,理由をきちんと伝えましょう。
 小さな子どもでも,自分が悪いことをしたから叱られるのか,それともお母さんが自分に八つ当たりで感情をぶつけているのか,敏感に嗅ぎ分けることができます。そして,母親が頻繁に理由もなく叱つていると,子どもは反発を感じたり,脅えたりするようになり,不信感が残ります。
 このお子さんの場合は,かなり覚えているようですが,それなりに言い返したり,おばあちゃんという避難場所があったりで,それほど深刻な状況ではないと思います。また,お母さんもこれからの関わり方次第で,子どもの記憶を修復することができます。
 これからの叱り方としては,いらいら7をぶつけるのではなく,理由をきちんと説明し,不意打ちは避けるようにしたいですね。いくら子どもが悪い場合でも,叱られることに身構える猶予は与えてあげましょう。いきなり感情を爆発させる叱り方ではなく,「いい加減にしないと,お母さん怒るわよ」などと,予告する方がいいでしょう。また,子どもの考えも尊重し,言い分も聞いてあげたいですね。