集中する力とは:注意のコントロールに向けて


5.注意の集中を妨げる実験

「それじゃね、今度はお母さんにも協力してもらって、耳で聞く場合の実験をしてみようか。私がA君の右耳に向かって、お母さんが左耳に向かって別々の話をするね。両方とも、ちゃんと聞いてね。あとでテストするからね。どう、両方聞き取れると思う?」
「うん、だいたい聞き取れるんじゃないかな。」
「オーケー。じゃA君の予想通りになるか、やってみようね。」
(ふたりがそれぞれ別々の話をする。)
「わー、なんだかごちゃごちゃになって、さっぱりわからないよ。もう、ぜんぜんダメ。」
「予想、はずれたね。」
「だいたいさぁ、両方いっぺんに聞き取らなきゃいけないことなんて、実際にはあんまりないよ。片方だったら自信あるもん。」
「ほんと?じゃあ、実験してみよう。今度はお母さんの話し声を無視して、私の話に集中してね。テストするから、ちゃんと覚えておいてね。」
(またしても、ふたりがそれぞれ別々の話をする。)
「はい、今私が話したことを書いてみて。」
「あれれ?」(正確に書けない。)
「ほらね。いっぺんに二つの話に注意を向けることはできないし、片方に注意してもう一方を無視しようとしても、あんまりうまくいかないでしょう?」
「うん。お母さんの声が気になって、先生の話が途中からわからなくなった。わからないと、覚えられないよ。」
「そうよ。気がついた?やっぱりうまく集中できないよね。じゃあ、次の実験では、私が話しかけるから、その声を無視して国語の問題をやってみよう。ほら、このプリントの文章を読んで、問いに答えてね。」
(A君に話し続ける。)
「どう、読めた?」
「うん...。一通り読んだはずなんだけど、先生の声が耳に入ってきて、プリントの内容がなんだかよくわからなかった。」
「なるほど。じゃあ次ね。今度は、私の声を無視して算数の問題を解いてみよう。」
(A君に話し続ける。)
「うーん、なんとかできた。」
「でも、けっこう答まちがえてるよ。」
「ほんとだ。ちょっとくらいうるさくても、もっとできると思ったんだけどな。こんなに影響が出るなんて、ちょっとびっくり。」
 はじめは半信半疑だったA君も、実験を通して学習活動への注意の影響を理解し始めたようだ。

次の章へ→