ぷち心理学タイトル 1.話しかければ心が育つ
 アメリカでのお話です。昔,ある施設にふたりの1歳児がいました。ふたりは精神発達に遅れがあったため,他の施設に移されることになりました。移された先には,比較的軽い知的障害をもつ女性たちが暮らしていました。半年ほどして,ふたりの幼児に知能テストを行ってみると,なんと成績が上がっていたのです。そして,さらに3歳を過ぎたときには,ふたりの知能はまったくふつうになっていました。つまり,知らない間に,このふたりは賢くなっていたのです。
 ふたりは,特に頭をよくする訓練を受けたわけではありません。なのに,いったいなぜ,こんな不思議なことが起こったのでしょうか。
 謎を解くカギは,環境にありました。元々ふたりのいた施設には人手が乏しく,赤ちゃんはベッドにじっと寝かされていたのです。少し大きくなってからも,遊ぶためのおもちゃもなく,また,遊んでくれる人もいない状態でした。話しかけてくれる人もほとんどいません。
 一方,ふたりが移された施設では,そこにいた女性たちが競ってふたりの相手をし,いっしょに遊んでくれました。軽度の知的障害はありましたが,幼い子どもをいとおしむ気持ちに変わりはありません。彼女たちは,2人をかわいがり,いつも話しかけていたのです。
 このエピソードが教えてくれることは何でしょうか。それは,子どもの心の発達にとって,まわりからの働きかけがいかに大切かということです。幼い子どもに対して,話しかける,いっしょに遊ぶ,といった他愛なく見える行動が,実は心の発達に欠かせない重要な役割を果たしていたのです。もちろん,より年齢の高い子どもにとっても同じです。このことを,いつも念頭に置いておきたいですね。
(2004年 Happy-Note 創刊号 p.23)