集中する力とは:注意のコントロールに向けて


6.A君の変化

 このような実験を重ねる中で、注意の促進要因と阻害要因についても、なるべくA君自身が自発的に考えるように促した。A君はしだいに注意の集中という心理過程に関心を持つようになり、自己観察を行ったり、また、私が行った実験を、友達相手に再現したりするようになった。そうした結果を、A君はすべてノートに記録していった。そして、一冊のノートができあがった。その表紙には、A君の字で「注意の研究」と書かれており、中には、次のような項目が記されていた。

○注意を集中しているとはどういうことか
○注意を集中していないと、どんなことが起こるか
○注意が集中できない原因は何か
勉強とは無関係な話が耳に入る/勉強とは無関係なものが目に入る/体の調子が悪い/眠い/心配事がある/おなかがすいている/おなかがいっぱい/同じことばかりで飽きている/休けいが多すぎたり少なすぎたりする
○注意を集中するにはどうすればいいか
集中できない原因をできるだけとりのぞく/勉強する内容に興味を持つ/計画を立てて勉強する/計画を守れたときの自分へのごほうびを決める

 それぞれの項目には、自分で試してみてわかったことやうまくいったことが書き込まれていた。たとえば、計画を守れたときの自分へのごほうびとして、「宿題を八時までに済ませたらテレビを見ていい」といった内容がある。ノートの最後に、A君は次のように書いている。
「ぼくは、ものを覚えたり考えたりするときに注意を集中することがどんなに大事かが、よくわかった。それから、集中できるための条件もわかってきた。だから、自分でかなり注意をコントロールできるようになった。それにしても、自分の頭の中で起こってることを観察したり、実験したりするのって、すごくおもしろい。友だちといっしょに実験すると、みんなで盛り上がった。これからも続けるつもりだ。」
 今では、A君の机の上はきれいに片づけられている。机に向かうときには、テレビを消し、騒がしい曲の入ったCDも流さない。授業中も、おしゃべりをしなくなったと言う。

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