集中する力とは:注意のコントロールに向けて


7.なぜ注意の集中が必要かを納得させることの重要性

 注意の集中についてA君が観察や実験を通して学んだ内容は、私が一通り説明したならば、ほんの三十分程度で済むものである。忘れないためには、さらにプリントを渡せばいい。A君はその内容を知識として獲得するだろう。しかし、これでA君の行動が改善されるとは思えない。行動変容にまで至らしめるには、より深い理解と納得が必要である。それには、実際に自分で実験的に体験してみること、そして自らの体験を解釈し、そこから何が言えるかを導き出す必要がある。注意集中の欠如が、知覚を通しての記憶や思考にどれほど不利な影響を及ぼすか。注意の集中を妨げる原因は何か。どうすれば注意を集中できるか。こうした問題に対し、自らの認知的な体験を対象化し、慎重に答を導き出す活動が重要なのである。この活動は、認知活動を認知するという意味で、メタ認知的活動と呼ばれる。学習時に、自発的に注意を集中させるためには、右に述べた意味で、子どもたちのメタ認知を促すことが効果的である。

参考文献)

(1)三宮真智子・森康彦「メタ認知能力を高める『考え方学習』の開発:情報の主体的な活用に向けて」日本教育工学会論文誌、二五巻、一号、一三~二五頁、二〇〇一
注)Aくんの話は、いくつかの事例を組み合わせて作成したフィクションである。