ぷち心理学タイトル 36.「私ばかり働いている」と感じるのはなぜ?
 「夫はあんまり協力してくれなくて,家事も子育ても私ばっかり」
こんな不満を漏らすママたちがいます。一方,夫の方にも言い分があるようです。
 「会社は遠いし,仕事もきついし…。それでも,朝のゴミ出しや夜の風呂掃除,休日は子どもの相手と,こんなに働いているのに,まだ不満なの?」
 お互い,自分の負担ばかりが大きいような気がして,険悪なムードになることも。
 実は,ここには,心理的な落とし穴があるのです。心理学者のロスたちは,興味深い実験を行いました。彼らは37組の夫婦に対して,朝食の支度や皿洗いなどの家事や育児など20項目について,夫と妻それぞれに自分がどれくらい貢献しているかを尋ねました。すると,不思議な結果になりました。理屈の上では,ふたりの貢献度を足し合わせると100パーセントになるはずですが,多くの場合,合計が100パーセントを超えていたのです。つまり,夫と妻の双方が,自分の貢献度を高めに評価していたのです。
 なぜ,そんな結果になったのでしょう? 実は,自分ががんばったことは思い出しやすいのですが,相手のしてくれたことは,あまり覚えていないためです。このような偏り(バイアス)を,ロスたちは,「自己中心性バイアス」と呼びました。心理学でいう「自己中心性」とは,自分勝手とは違い,ものごとを自分の視点からだけ見てしまうことを指します。
 こうした自己中心性バイアスのために,私たちは,ついついパートナーがしてくれたことを軽く見てしまいがちです。その結果,相手をほめたり,お礼を言ったりすることが少なくなります。すると相手は,寂しさや不満を募らせるでしょう。お互い,悪気はないのに,なんとなく関係がぎくしゃくしてしまう…そんなことにもなりかねません。
 私たちにできることは,自分のものの見方の偏りを自覚することです。「私は相手よりもたくさん働いた」と思う時は,ほんの少し割り引いて考えた方がよさそうです。お互いにそうすることで,よりよいパートナーシップを築いていけたら,ステキですね。
(2013年 Happy-Note 夏号 p.77)