「カナリア学園の物語コンテスト」入選作品

「カナリア学園の物語コンテスト」とは


 このコンテストは,2012年1月に,大坂大学人間科学部で行っていた私(三宮)の授業「思考支援の認知心理学」受講生を対象に実施したものです。学期末に課したクリエイティブ・ライティングの課題作品は,当時副読本として用いていた『考える心のしくみ:カナリア学園の物語』(「教授のページ」で内容を紹介しています)に追加したい内容を,この物語に位置づくような構成・文体で書いた作品でした。提出者のうち希望者の作品は,同時にコンテスト応募作品として扱い,審査の上,入選作品をweb上に載せることにしました(結果,30名全員が希望し,30編の応募となりました)。

審査について

審査員は私ともう1名の覆面審査員(心理学者)が務め,主に次の2つの観点から審査しました:(1)考える心のしくみを理解する上で重要な,思考の落とし穴や注意点をわかりやすく簡潔に解説していること,(2)カナリア学園の他の授業と並べて語り口に違和感がなく,物語の一部として自然であること。
 いずれも力作ぞろいであったため,審査には時間がかかりましたが,ようやく4編を入選と決定しました。そしてこの度,HPの大規模改修に合わせて,公表する運びとなりました(学年は,当時のものを記載しています)。

作品への追加修正について

 応募者の了承を得て,ささいな誤りや記述の不揃いな点に対し,一部加筆修正を行っていますが,いずれも大筋に影響しない程度のものです。

作品番号1 夏休み特別授業 ~経済は感情で動いている?~

◇人間はみんな超人?

 カナリア学園も夏休みに入りました。グラウンドでは運動部の生徒が練習に励み,音楽室からは,吹奏楽部が合奏する様子が聞こえてきます。そんな中,大講義室にぞろぞろと人が集まってきています。今日は,「考える時間」の夏休み特別授業の日です。1学期に開講されて大好評だった「考える時間」の授業。多くの生徒から,もっと色んなことが知りたいという声があがり,夏休みに1日特別授業をすることになったのです。
 生徒が夏休みの予定などをぺちゃくちゃとおしゃべりしていると,ウラシマ先生がやってきました。
 「やあ,みんな久しぶりだね。夏休みだというのに,こんなに集まってくれるなんて,正直びっくりしています。みんな夏休みの宿題は進んでいるかな?」
 生徒たちの顔が曇ります。
 「ははは,まぁ,それはさておき,1学期に,感情が判断を狂わせる,って話をしたのを覚えているかな」
生徒たち 「覚えていまーす」
「よし,みんな優秀だね。今日は,その話と関連して,損か得かという判断をする時に,感情がどう影響を与えるのか,という話を・・・
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作品番号2 カナリア学園の「賢い」卒業生

日常的生活を賢く送る

 ここはN市の中心部のおしゃれなカフェ。N市といえば,名門カナリア学園やZ大学がある学園都市です。そのため,このカフェは女子学生たちの人気スポットとなっており,いつも賑わっています。
 そんなカフェも,お正月ともなれば落ち着きを取り戻し,今日は初詣の帰りらしいお客さんがちらほら見える程度。そんな中,おしゃれな雰囲気には少し合っていない,疲れた顔をした男性がいます。
 ウラシマ「ふう,お正月で研究がひと段落ついたとはいえ,『考える授業』の研究が忙しくなってしまったせいでのんびりもしていられない。新年も始まったばかりなのに,じきに研究の発表会も控えているし…」
 彼の名前はウラシマケント。とある大学で認知心理学の研究をしており,今はその一環として,子供たちに考える力を身につけるための『考える授業』の研究をしています。研究自体は好評で,どんどん規模が大きくなっていますが,彼は少し悩んでいました。
「『考える授業』の研究は今や様々な研究機関でされているけれど,僕の考える『賢さ』はIQテストのようなものでは測りにくいから,なかなかその成果は見えづらい。本当に子供たちの考える力を育てているのかな?」
 ぬるくなったコーヒーをすすっていると,楽しげな二人組の女の子たちが・・・
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作品番号3 印象にとらわれて判断してしまう

1.魅力度の影響とは?


◆―見た目が大事?

 考える時間の授業もあと少しとなってきました。ウラシマ先生は,生徒たちに伝えたいたくさんのことの中から,テーマを絞るのに一苦労です。今日はどんな授業をするのでしょうか。
 「今日はまず,『人は他人を見た目で判断しているかどうか』について考えてみることにしよう。みんなは他人のことを見た目で判断していると思うかな?」
 「してませーん。」生徒たちは口をそろえて答えます。
 「おぉ。みんな随分自信たっぷりに答えてくれたね。じゃあ,どうしてそう断言できたのかな?」
生徒たち「人は見た目じゃなくて中身が大事なんです。」
 「そうだね。みんなもよく知っている通り,人を見た目で判断することはよくないことだ。しかし,本当に僕たちは見た目で判断しないということができているのだろうか。」

 「この2つの写真を見てほしい。サトシ君とカズキ君どちらの方がいたずらしそう・・・
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作品番号4 見た目に騙されるな! ~数字とグラフのテクニック~

*計算してはいけない数字だってある!*

 今日も火曜の4限のチャイムが鳴りました。「考える時間」の始まりです。4月の頃には落ち着かなかった生徒たちもウラシマ先生がやってくるのを静かに待っています。
 「君たち,そろそろ期末テストの勉強をしているかな。どうだい,リサくん」
 「うーん,私中学の頃は結構国語が得意だと思ってたんですけど,この前の中間テストで40点なんて点数取っちゃって。高校で初めてのテストだからと思ってたくさん勉強したのに。だから自信なくしちゃって,まだテスト勉強に手をつけてないんです」
 すると,エリがリサに向かって言います。
 「確かに,リサは中学の頃90点以下取ったことなかったもんね。でもさ,あのテスト,先生がいじわるしてめちゃくちゃ難しくしたから30点以上の人はクラスに3人しか・・・
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