「カナリア学園の物語コンテスト」入選作品

作品番号3 印象にとらわれて判断してしまう

1.魅力度の影響とは?


◆見た目が大事?

 考える時間の授業もあと少しとなってきました。ウラシマ先生は,生徒たちに伝えたいたくさんのことの中から,テーマを絞るのに一苦労です。今日はどんな授業をするのでしょうか。
 「今日はまず,『人は他人を見た目で判断しているかどうか』について考えてみることにしよう。みんなは他人のことを見た目で判断していると思うかな?」
 「してませーん。」生徒たちは口をそろえて答えます。
 「おぉ。みんな随分自信たっぷりに答えてくれたね。じゃあ,どうしてそう断言できたのかな?」
生徒たち「人は見た目じゃなくて中身が大事なんです。」
 「そうだね。みんなもよく知っている通り,人を見た目で判断することはよくないことだ。しかし,本当に僕たちは見た目で判断しないということができているのだろうか。」

 「この2つの写真を見てほしい。サトシ君とカズキ君どちらの方がいたずらしそうだと思う?」

生徒たち「両方いたずらすると思います。子どもなんだし。」
 「カズキ君かな。なんだか悪そう。」
 「私もカズキ君だと思う。意地悪そうな顔してる。」
 「ほんとだね。カズキ君の方がいたずらしそうだね。」
 ふと気づいたようにノアが言いました。
 「あ,これって見た目で判断してしまっているってことじゃない?」

 「その通り。今カズキ君を選んだ人たちは見た目で判断して答えてしまったんだよ。これと同じような実験をした人がいるんだ。」

◆アメリカでの実験

 「ボールを他の子どもにぶつけた,寝ている犬のしっぽを踏んだなどの軽いいたずらと氷の入った雪玉を他の子どもにぶつけて出血させた,寝ている犬に石を投げつけ出血させたなどの重いいたずらを,魅力的な子どもとそうでない子どものどちらがする可能性が高いかを大人が推測する実験を行ったところ,結果平均値はこうなりました。」

 「この表を見ると,大人は魅力的な子どもの方がいたずらをする可能性が少なく,魅力的でない子どもは重いいたずらをする可能性が高いと判断してしまっていて,魅力度が違うだけで,いたずらをする可能性の判断に影響が出てきていることがわかるね。これはあってはならないことだと思わないかい?本当はいたずらをしていなくても,魅力度が低いせいで疑われてしまったら,その子はとてもショックを受けるだろう。」

◆裁判員制度

 「ところで,裁判員制度って知っているかな?」
生徒たち「知っています。有権者の人たちが裁判官と一緒になって裁判する制度だよね。」
 「そうだね。その裁判員裁判でも,被告人の魅力が裁判の判決に大きな影響を与えることが分かっているんだ。」
生徒たち「え? それって魅力度によって刑が違うってこと?」
 「そうなんだよ。魅力的でない被告人に比べて,魅力的な被告人に対して軽い罰を課すことがわかってるんだ。魅力的な人の方が犯行の原因は性格のせいではなく,何かほかに理由があったのだろうと思われやすいんだ。」
生徒たち「でもそれって見た目で判断してるってことですよね?」
 「その通り。でも,裁判員たちは自分たちが見た目で判断しているなんて思ってもいないはずだよ。このように,自分たちでは気付かないうちに,僕たちは人を見た目で判断していしまっている。だから,君たちが裁判員になることがあったら,このことを思い出して,見た目に惑わされていないかを考えてほしい。」

2.印象形成のルール


◆順序による効果

 「次は,ちょっと視点を変えて,人の印象についての話に移ろう。第一印象はどのようにして作られるのだろうか。
 2人の性格を聞いて,それぞれどんな人か考えてもらいたい。
 まず1人目は,知的で勤勉で衝動的であり,批判的で頑固で嫉妬深い。2人目は,嫉妬深く頑固で批判的であり,衝動的で勤勉で知的である。この2人にどのような印象を持ちましたか?」
生徒たち「初めの人は賢そうだね。2人目の人は性格悪そう。頑固でいやな感じ。」
 ウラシマ先生は,ニヤニヤしています。
 「先生どうして笑っているのですか?」
 「気付いていないようだが,1人目も2人目も全く同じ情報を与えたんだよ。」
 「ほんとに?全然違う印象を受けたけど。」生徒たちは驚いた顔をしています。
 
 「今言った2人の性格は,①知的②勤勉③衝動的④批判的⑤頑固⑥嫉妬深いという6つの同じ性質で表現されていたんだ。順序を全く逆にしただけで,その人の印象が正反対になってしまったね。同じ情報でも提示される順序によって全く異なる印象が形成されるということだ。基本的には最初に与えられる情報があとの情報の意味を左右する。これを初頭効果といいます。この初頭効果によって,違う印象を受けたというわけだ。」

◆ 一語違いで大違い?

 「ほかには,こんな話がある。ある日,大学の授業を新しい教師が担当することになった。授業の前に,学生たちにその教師の紹介文が配られた。紹介文は2種類あり,学生の半分にはAが,残りの半分にはBが配られた。


 この紹介文を読んでから,学生たちは全く同じ授業を受けた。そのあとに教師の印象についてのアンケートをとってみると,その教師の印象が全く違ったんだ。」
生徒たち「うそでしょ。信じられない。」
 「『温かい』と書いてあった紹介文を読んだ学生は,その教師をユーモアのある,思いやりのある人だと判断し,『冷たい』と書いてあった紹介文を読んだ学生は,その教師を 怒りっぽい,ユーモアのない人だと判断したんだ。同じ授業を受けたのに,紹介文の一文字が違うだけで,これほど印象が違ったことから,温かいか冷たいかどうかというのは人の印象を形成するのにとても大事だということがわかるね。『温かい』『冷たい』のように中心的機能を果たす特性を中心特性といいます。人の印象は状況や見る側面によって変わるということだ。」

 「今日の授業で伝えたかったのは,人は他人を見た目で判断したり,偏った見方で印象を形成したりしてしまうということだ。これは,仕方のないことで,してはいけないと伝えたいわけではない。ただ,自分では気づかないうちに見た目で判断し,恣意的に印象を形成してしまっているんだと知っていることが大事なんだ。君たちが他人に対して行動をする時,僕のこの授業を思い出し,自分が勝手に作り出した印象によってのみ,その行動を起こそうとしていないのか,考え直すことができるようになって欲しい。
 来週で最後の授業だね。来週もとっておきのテーマを用意するから,楽しみにしててね。ではまた来週。」
 そう言ってウラシマ先生は教室を出て行きました。また来週が楽しみです。

<参考文献>
猪八重涼子, 深田博己, 樋口匡貴, 井邑智哉(2009). 被告人の身体的魅力が裁判員の判断に及ぼす影響, 広島大学心理学研究,9 ,247-263
Dion, K. K. (1972). Physical attractiveness and evaluation of children's transgressions. Journal of Personality and Social Psychology, 24, 207-213
Kelley, H. H. (1950). The warm-cold variable in first impressions of persons.
Journal of Personality, 18, 431-439.

人間科学部2年 木村泉