主要編著書紹介
『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(三宮真智子著)ナカニシヤ出版 222頁2500円+税
本書は,コミュニケーションにおける「誤解」という日常的な現象に着目し,心理学を中心に,脳科学,言語学,文化論の知見をもとに,誤解がなぜ起こるのかを解き明かそうとするものです。また,コミュニケーションの中で起こる誤解を考えるためには,コミュニケーションそのものを客観的に眺めること,すなわちコミュニケーションに対するメタ認知が欠かせません。そうした理由から,本書に通底するのは「コミュニケーションのメタ認知」です。
誤解は,私たちが社会の中で生きていく限り,避けて通ることのできないものでしょう。誤解には,さまざまな要素が含まれており,見方を変えれば,これほど興味深い現象はないとも言えます。積極的に誤解と向き合い,誤解を引き起こす原因を探ることによって,心のメカニズムが明らかになるはずです。
本書の特徴は,きわめて多様な誤解の実例を取り上げていることです。どのような場合に誤解が起こりやすいかという一般則を導くためには,架空の話ではなく,実際に起こった数多くの誤解例を知っておくことが役立つと,私は考えています。
もちろん,誤解に対する理解を深め,入念な予防策を講じたとしても,誤解がまったくなくなることはないでしょう。ネットでの接触も含め,人と接している限りは,おそらく誤解を完全になくすことはできません。でも,誤解について多くの事例を知り,また,なぜ誤解が起こるのかを理解することによって,つまり,メタ認知を働かせることによって,ある程度予防ができるとともに,早く誤解に気づくことができ,亀裂が深まる前に関係修復が可能になるのではないでしょうか。
本書は,事例編、解説編、予防・対策編の3部構成になっています。
<目次>
まえがき
序
1.本書の目的と構成
2.「コミュニケーションのメタ認知」とは
I 事例編
1章 日常の中の誤解
1.笑ってすませられる誤解
2.笑っていられない誤解
コラム1 ある主婦の災難
3.かなり深刻な誤解
コラム2 ある大学院生の悲劇
II 解説編
2章 誤解の言語学的背景
1.言語表現の誤解調査
2.音韻論的誤解
3.統語論的誤解
(1)省略表現に関するもの
(2)修飾語―被修飾語・主語―述語・主語―目的語の関係づけに関するもの
4.意味論的誤解
(1)方言に関するもの
(2)同音異義語に関するもの
(3)多義的表現に関するもの
コラム3 「のび太」に似ていると嬉しいか?
(4)抽象的表現・専門用語・流行語に関するもの
(5)主観的表現に関するもの
5.語用論的誤解
(1)間接的要求に関するもの
(2)間接的拒否に関するもの
(3)その他の間接的表現に関するもの
(4)指示表現に関するもの
コラム4 誤解で絞首刑になってしまった!?
6.発話意図の解釈と心の読み取り
3章 誤解の心理学的背景(1):言語内容の誤解
1.情報の非共有に起因する誤解
(1)語の意味の非共有
(2)省略語の非共有
(3)含意(発話意図)の非共有
コラム5 高くついた冗談
2.予想・期待に起因する誤解
コラム6 わかりにくい話
3.記憶の歪みに起因する誤解
コラム7 いつの間にか「亡くなって」いたキング夫人
4.他者視点の欠如に起因する誤解
5.気分・感情に起因する誤解
4章 誤解の心理学的背景(2):言語内容以外の誤解
1.コミュニケーション・メディアに起因する誤解
2.あいづちとうなずきの乏しさに起因する誤解
3.パラ言語と表情に起因する誤解
コラム8 誤解を招いたメラビアン
4.その他の非言語に起因する誤解
(1)アイコンタクト
(2)物理的距離
(3)着席位置
(4)身体接触
(5)服装や持ち物など
(6)文字フォント
コラム9 「エレガント平成」騒動
5章 誤解の文化論的背景
1 日米のコミュニケーション文化の違い
2 日米摩擦の裏にある誤解
3 日米の表情差
4 男女間のコミュニケーション文化の違い
コラム10 あるカップルの破局
5 日本国内でのコミュニケーションの文化差
コラム11 お茶漬け伝説
6章 コミュニケーションに関わるメタ認知と脳機能
1.メタ認知とは何か
2.コミュニケーションに関わるメタ認知
コラム12 メタ認知が働きすぎると…
3.コミュニケーションにおけるメタ認知と関連する概念
(1)視点取得
(2)心の理論
(3)共感
(4)メンタライジング
(5)マインド・リーディング
4.コミュニケーションとメタ認知を司る脳領域
コラム13 急に人間関係がうまくいかなくなった青年の謎
5.社会脳
6.メタ認知と脳
III 予防・対策編
7章 誤解への予防・対策
1.予防・対策を要するコミュニケーションの悩みとストレス
2.メタ認知を促すコミュニケーション・トレーニング
(1)誤解事例分析シートを用いた演習
(2)不十分な説明材料を用いた演習
(3)自らのスピーチ・プロトコルを作成する演習
(4)討論を評価し合う演習
(5)言わなかったことを「言った」と思わせる演習
(6)誤解を誘発するメッセージを作る演習
(7)非言語情報の伝達演習
コラム14 「なべなべ,そこぬけ」の動作を言葉で説明してみると
(8)概念や考えを図で表現する演習
おわりに
引用文献
事項索引