感情のハイジャック
ぷち心理学タイトル 47.感情のハイジャック
 ある日のスーパーで,お気に入りのキャラクターが描かれたパッケージのチョコ菓子を持って来た2歳くらいの男の子。買い物カゴにチョコ菓子を放り込もうとします。それを見とがめたママが,きつい口調で言います。 「昨日も同じのをいっぱい買ったでしょ。今日はダメ!ほら,ママに渡しなさい!」 (でも,2歳児の心には「今」しかなく,「昨日」のことなど意識にありません。) 「いや!これほしいもん!」 男の子は,絶対に渡すもんかと,チョコ菓子をギュッと抱きしめます。 「渡しなさいと言ってるでしょ!!ママ,急いでるのよ,早く!!」 するとその時,ショッピングカートの中でおとなしくしていた1歳にもならない弟が,夢中でペロペロなめていたゼリーのカップを落としてしまいます。スーパーの床に無残に飛び散るゼリー。 「もう,何やってんのよ!!」 思わず弟のほっぺをパチンとたたいて,兄の手からチョコ菓子を奪い取り,棚に戻すやいなや,兄を脇に抱えて,ショッピングカートの轟音とともにレジへと突進するママ。たたかれた弟はワーッと泣き出し,横向きに強く抱かれた兄は手足をバタつかせながら「いやだ~,いやだ~」と叫び続ける…。
 こんな光景を見かけたことはありませんか?これは,ダニエル・ゴールマンの「エモーショナル・インテリジェンス」という本に登場する光景です(日本向けにアレンジしています)。ゴールマンは,こうした状態を「感情のハイジャック」と呼びます。つまり,兄に対して,すでにイライラしていたところへ,弟が床にゼリーを飛び散らせたという新たなストレスが加わり,心が激しい怒りの感情に乗っ取られてしまったのです。
 こんなふうになりそうな時は,大きく息を吸い込んで呼吸を整え,とりあえず冷静さを装いましょう。「怒るのは,もう少し後で」と自分に言い聞かせます。怒りをむりに閉じ込めると,あとでマグマのように吹き出しますから,閉じ込めるのではなく,いったん気を逸らすのです。子どもが原因の怒りなら,やがては静まっていきます。怒りに任せて子どもをたたくと,かえって怒りが増幅しかねないため,たたくことは避けましょう。
  (2016年 Happy=Note 春号 p.87)