ぷち心理学タイトル 13.叱られた記憶はトラウマになる?
 子どもをきちんとしつけたい。でも,叱られた記憶はトラウマになるのでは? こんな心配をかかえるママたちがいます。そもそも,トラウマとは何でしょう? 「心的外傷」とも呼ばれ,心理学的には,非常に強いショック体験のために心に傷を負った状態を指します。ここで言う非常に強いショック体験とは,虐待を受ける,大きな地震や火事,事故などに遭遇するといった,かなり非日常的なものを意味します。ですから,通常は,単に叱られたことがトラウマになるとは考えにくいのです。
 では,子どもは,叱られたことをどれくらい記憶しているのでしょうか? 私の研究室で大学生169名を対象として行った調査では,叱られた記憶の報告件数が最も多いのは小学校時代で95件,続いて中学校時代で85件でした(重複あり)。幼稚園時代はわずか15件。それ以前となると,あまりはっきりとは思い出せないようです。個人差もありますが一般には,幼児期の記憶は,とてもあいまいなのです。2,3歳頃までは言葉が未発達なため,記憶も感覚的でぼんやりしています。
 「イライラしていて,子どもに思い切り怒りをぶつけてしまった。どうしよう?」
 こんな場合の修復法は,子どもをぎゅっと抱きしめて優しい言葉をかけてあげることです。小さな子どもは,ママの態度を感覚的に受け止めるため,「こわい」「悲しい」と感じて泣いている時でも,ママに優しくされると安心します。さらに,「○○ちゃん,大好きよ」と頬ずりされることで心が落ち着くでしょう。もちろん,ママの気持ちが安定していて感情だけで子どもを叱らないことが理想的なのですが,「つい,叱りすぎてしまった!」という時は,できるだけ早い修復を心がけましょう。
 いやな感覚として心に残りやすいものは,厳しさ,こわさよりも,むしろ冷たく拒絶的な態度です。日頃あたたかく子どもに接し,強く叱った後にはアフターケアを心がけるならば,それほど心配することはないでしょう。
(2007年 Happy-Note 秋号 p.87)