ストーリー2:問題を論理的にとらえる練習をしよう

 ウラシマ先生は,生徒たちをなだめます。
「まあまあまあ。これはまだ,決まったわけではないんだ。アイデアの段階だよ。今日の授業ではまず,このアイデアで本当に問題が解決するのかどうかを論理的に考えてみたいんだ」
「いいかい。生徒たちがみんな,きちんとルールを守った場合,
「カナリア学園の生徒であるならば,黄色いリボンをつけている」
 は,常に正しいと言えます。いいね。では,黄色いリボンをつけていない子は,カナリア学園の生徒ではないと判断していいのでしょうか」
 生徒たち:「はい。いいと思います」
「はい,その通りだね。それでは,黄色いリボンをつけている子は,カナリア学園の生徒だと判断していいのでしょうか」
 生徒たち:(少し考えて)「はい,そうです」
「えっ,そうだって?ちょっと待って。もし,他校の生徒が黄色いリボンを髪につけていたら,どうするの?」
 生徒たち:「あっそうか。そこまでは考えなかった」
「実は,この種の判断の誤りはけっこう多くて,うっかりすると見過ごしてしまいやすいんだよ。順序立てて考えていこう。まず,
「カナリア学園の生徒であるならば,黄色いリボンをつけている」の中の,
「カナリア学園の生徒である」をと置き換え,
「黄色いリボンをつけている」をと置き換えてみよう。
 すると,
「AならばB(である)」という形になるね。このように,1つの主張を文で表したもの を命題と言います。
 事実について述べた命題に対しては,それが正しいか正しくないかを判断することができるんだ。
 たとえば,
「カナリア学園の生徒ならば黄色いリボンをつけている」
 今,この命題は正しいよね。では,次に,
「黄色いリボンをつけているならばカナリア学園の生徒である」
 を考えてみよう。これは,を使って表すと,
ならばである」だね。これは,もとの命題を逆(さかさま)にしてあるから,逆命題と言います。次に,
「カナリア学園の生徒でなければ,黄色いリボンをつけていない」
 を考えてみよう。これは,を使って表すと,
「Aでないならば(Aでなければ)Bでない」だね。これは,もとの命題を裏返してあるから,裏命題と言います。
 僕たちは,逆命題や裏命題を正しいと錯覚してしまいがちなんだけど,これらは,必ずしも正しいとは言えない。ほら,さっきも言ったように,たまたま他校の生徒が黄色いリボンをつけている場合が考えられるからね。では,最後に,
「黄色いリボンをつけていなければカナリア学園の生徒ではない」
 を考えてみよう。これは,を使って表すと,
「Bでないならば(Bでなければ)Aでない」だね。これを,元の命題に対して対偶命題と言います。
 元の命題が正しいとき,常に正しいと判断できるのは,この対偶命題だけなんだ。
 具体的な内容のままだと,こんがらがってしまったり,わかりにくかったりすることがあるけど,そんな時は,中身を「A」や「B」に置き換えてみるといいよ。記号に置き換えることによって,内容に惑わされることなく,論理的な判断ができるというわけ。次の図にまとめてあるから,見てみよう」


「校長先生のアイデアに含まれる問題点を,わかりやすく黒板にかいてみよう」
「いいかい。「~ならば~」という情報が与えられて,ここから言えること,言えないことは何かを判断するためには,まず,「Aにあたるものは何か」「Bに あたるものは何か」を考えるんだ。「AならばBである」から言えることと言えないことをきちんと区別する。これが,論理的に考えることのスタートラインだ よ。そして,判断を誤らないためにも,重要なことなんだ。」
「なるほど,ただのAとかBとかのままだと,実感がわかないけど,こういう具体的な話にあてはめてみると,なんだか急に親しみがわくわ。」
「そして,具体的な話のままだと,どれがまちがっているのかわかりにくい場合があるけど,抽象的なAとかBとかの記号に置き換えてみると,構造っていうか,話の骨組みが見えやすくなるような気がする....。」
「うんうん,君たち,なかなか今日はさえてるじゃないか。まったくその通りなんだよ。具体的なものと抽象的なものとの間を行ったり来たりすること。ものごとを考えるときには,これがとっても役立つんだ。」
「と言うことは,さっきの校長先生の話に戻ると,私たちが黄色いリボンをつけたとしても,迷子対策にはならないわけなんですね。」
「まあ,そういうことだね。」
「わー,よかった。それじゃ,私たちとしても,その案に堂々と反対できるってことですね。」
「そうだわ。しかも,「黄色いリボンなんかイヤ」っていう感情論じゃなくて,論理的な反論ができるんだわ。」
(喜ぶ生徒たち)
「論理的に判断するって,本当に役に立つんですね。」
「そうなんだ。わかってくれて僕も嬉しいよ。」  さて,黄色いリボンのアイデアは,その後どうなったでしょうか。
 1年3組の生徒たちによる,論理的な反論を受けた校長先生は言いました。
「うーん。言われてみると,なるほどその通りだ。私の考えが,少し軽率だったようだね。迷子対策には,何か他の方法を考えることにしよう。」
 生徒たちから反論された校長先生は,がっかりしているのでしょうか? いいえ,実はその反対です。校長先生は内心,こう思ったのです。
「いやー,みごとだ。わがカナリア学園の校訓である「自由・自律・創造」の精神は,生徒たちのものの考え方にしっかりと根づいておるようだね。わっはっは」
カナリア学園の黄色いリボン
THE END