事例集1 承諾誘導体験事例集


(1)フットインザドア

他者から使われた

「子どもの英語教材で…」
 電話で,「お子さんの教材を無料で届けますからどうぞご覧下さい。いきなり届くとびっくりされるでしょうから,ご連絡させていただきました。」と言われ,あまり悪い気はしなかった。2,3日後教材のビデオが届き,数日後電話がかかった。女性の担当者から,男性の担当者に変わり,教材の追加注文を強く勧められた。

自分が使った

「ポスター貼りで!」
 演奏会を開くために個人負担としてだいたい2万円位かかっています。自主運営団体ですので自分たちでチケットを販売しないと割り当てられたチケット代を個人で負担することになります。
チケット販売ですが,演奏会のチラシ(A4版)が準備してあり,まず友人にそのチラシが必要かどうか聞いてみます。「必要ない」ということであればそれまでなのですが,「欲しい」,「もらってもいい」となると演奏会の内容を詳しく説明します。その時の感触がよければ,「今チケット持っているけどどう?」と切り出します。すべての人が買ってくれたわけではないのですが,このような販売方法を採っていました。

(2)ドアインザフェイス

他者から使われた

「結婚式の打合せにて…」
 結婚式の打ち合わせで妻(当時の彼女)とホテルに行くと,先方はまず高額のデラックスセットというのを紹介してくれた。その後,手頃な値段のレギュラーセットというのを出してきた。しかし,安い値段というのは本当の基本料金で何もついておらず,屏風やウェディングケーキなどを追加していくと,けっこうな値段になった。実は,さらに安いチープシックセットとかいうモノもあったのだが,彼女の横ではとてもそれを選ぶことはできなかった。

自分が使った

「作文課題で!」
 子どもに原稿用紙5枚の作文の課題を出すとき,「じやあ,原稿用紙10枚の作文!」と言います。「え~…」と文句が出るので,「しょうがないなあ。どうしてもいやか?それじやあ半分の5枚にしてやろう。そのかわり,最後までよく考えて書けよ。」などと言ったりします。最初から5枚と指示してもいいのですが,上に述べた言い方の方が,子どもにも受け入れやすいと思います。

(3)ローボール

他者から使われた

「電気店にて…」
 場所は,ある電気店。時は日曜日の午後。私の家の全自動洗濯機が故障し,買い換えようとやってきていた。洗濯機コーナーへ行き,いろいろと機能や値段を見ていると,店員が近づいてくる。2つの洗濯機で迷っていると,店員が2つの洗濯機の機能を説明した後,値段について話し始めた。
店員「この洗濯機は,現在5万5千円ですが,さらに値下げできますよ。」
私「いくらぐらいにできるんですか。」
店員「少々お待ちください。」(たぶん責任者のところに行ったのだろう。)
(帰ってきて)
店員「5千円までなら値引きができるので5万円でどうでしょう。」
私「(5万円になるのか…)じゃあ,これでおねがいします。それで,いつ持ってきていただけますか。」
店員「ちょっと調べてみますね。」(といって調べに行く。
(帰ってきて)
店員「あさっての午後になりますけど,取り付けの作業で5千円かかって,5万5千円になりますがよろしいでしょうか。」
私「・・・まあ,いいです。」

自分が使った

「待ってください!」
 学生時代に,友達5人で東北旅行に行った。ある渓谷を2時間近く散策したが,時間をかけすぎてしまい,1時間半に1本しかないバスに乗り遅れそうになった。「このままでは,弘前ねぶた祭りに間に合わない!」そこで,5人のうち足に自信のあった私と友人Aがとにかくバス停まで走ることになった。ぜ一ぜー言いながらバス停に着くとすぐにバスがきた。とりあえずバスに乗り込み,運転手さんに「友達がもうすぐ走ってきますから待って下さい。」と頼んだ。1分程度で友達Bが着いた。運転手さんが「もう出発していいの?」と言ったので,「すみません。とにかくバスに間に合うようにと走ってきたので,まだあとから来る友達が荷物もお金も持っているんです。」と打ち明けた。運転手さんはかなりむっとしていたが,しかたなく待ってくれた。そして,3分後,残りの二人がトラクターに乗せてもらって到着し,荷物と共にバスに乗り込んだ。この3分はとっても長く感じられた。
.

その他

他者から使われた

「当選されました…」
 大学生の頃,「あなたは抽選であたりました。つきましては粗品を進呈したいのでぜひ我が社まで足をお運び下さい」という電話がかかってきたことがあった。突然どこかから電話がかかってくるという経験が初めてだったので,「ただでもらえるならとりあえず行ってみよう」という軽い気持ちで原付を走らせて着いてみると,旅行に興味はあるかとか,ブランド品に興味はないかとかの話が始まり,会員になれば格安料金で海外旅行に行けたり,ブランド品を購入できるという内容になっていった。粗品というのも,「教養を身に付けるため」の12本セットのビデオであったり,世界の民話などの本のことで,会員になればこの粗品がもらえる,というものであった。粗品やブランド品はともかく,「格安で海外へ」の魅力や一生会員でいられるという言葉に負け,契約を交わすことになった。
  クーリングオフの話もあったが,詳しい説明を受けたわけでなく,また,「約束」した以上断るのも…。後でよく考え直し,やめようかとも思ったが,「やめることはできますが,その際手続きが複雑で,そうなると我が社も困るので…」ということも言われていたので思いとどまった。ということで,粗品でつられた私は,結局36万円ほどのローンを組み会員となった。
  思い出すと今でも,36万円で会員になったというよりは,ビデオや本を買わされたという虚しい気持ちになる。今でも会員は続けているのだが…。

「若い女性から電話が…」
 まだ独身の頃の,とある土曜日の夕方(1),若い女性から(2)電話がかかってきた。
「○○さんですか。△△さん(高校の同級生)の紹介(3)で,お電話させていただきました。是非,ご紹介したいお話があります。○○さんにとってとてもお得なお話です。誰でもというわけにはいきませんので,こちらで信頼のおける方にだけ(4)お知らせしております。近くのファミリー・レストランでお話できますか(5)。」
 内容は,様々な割引(無料もあり)を含む会員権のようなサービス(すごく高額)を買わないかという話だった。やっぱり,と思いつつ,こんな誰も買わないようなものをどうやって勧めるつもりか,興味本位で聞いてみる。
「絶対お得ですよ(6)。私も利用しているんだけど(7),本当にいいもの買ったと思います。」
いい加減,堂々巡りの話が嫌になって,きっぱり断る。
すると,ちょっと表情が変わってくる。
「じゃあ,どう話したら納得してもらえるんですか(8)。」
「これだけ話しても分かってもらえないんですか(9)。」
「私の今までの時間はどうなるんですか(10)。」
 最終的に断ると,自分のコーヒー代も払わず,去って行った。最後は,気の弱い人なら契約しそうな勢いの語調,表情だった。可愛らしい子だったんだが。
<事例報告者本人による注>
(1)暇な時を狙っている。
(2)独身男性に効果的。
(3)知人を出して安心させようとしている。
(4)胡散臭さ120%だが,とりあえず悪い気はしない。
(5)かなり警戒するが,若い女性の声が,話だけ聞いてみようと思わせている。
(6)前提条件として,“頻繁に利用すれば”ということ。
(7)これは,あやしい。
(8)ちょっと攻め方を変えたらしい。
(9)開き直って,高圧的に出ている。
(10)「それが仕事なんでしょう。」という話だが,そう言えば罪悪感を感じる人もいるかも。

「ほしい人は手を挙げて…」
 私が子どもの頃,当時住んでいた団地の集会所に主婦たちを集めてキッチン用品の紹介や販売が行われました。最終的に,無水鍋といわれる圧力鍋を販売することが目的でしたが,その鍋の販売に至るまでには,おろし器,ボール,ザルなどさまざまなキッチン用品をプレゼントしてくれました。ただし,「ボールがほしい人は手を挙げてください。」言われると,すぐさま「はい。」と手を挙げた人だけがもらえるものでした。「はい。」と手を挙げなかったり,挙げ遅れたりした人はもらえなかったそうです。実際に貰えない人がいるのを目の当たりにすることで,商品が欲しいという気持ちを高め,何回も「はい。」と言わせることで,言ってしまいやすい雰囲気を作り,こんなにもらったのだから,一つくらい買わないと悪いと思わせたりしていたのだと思います。鍋は法外な値段で,当然配られた景品の代金もその中に含まれていました。
事例集2 執拗な勧誘への対策事例集へ →